記憶障害の症状と対応・ケア

認知症の中核症状に、記憶障害があります。

  • 記憶障害とは、自分の体験した出来事や過去についての記憶が抜け落ちてしまう障害のことを言い、認知症の中核症状のひとつで、進行とともに悪化していきます。自覚のある物忘れとは違い、自覚がなく、日常生活に支障が出てきます。

記憶力とは ?

  • 記銘力 ・・・ 新しいことを覚える力。
  • 保持力 ・・・ 覚えたことを保持しておく力。
  • 想起力 ・・・ 思い出す力。

記憶力というのは、銘記力・保持力・想起力の総称で、種類にもよりますが、認知症になると最初に記銘力に障害が現れて、進行とともに全ての力に障害が見られるようになります。

記憶障害の分類

  • 短期記憶障害 ・・・ 短期記憶とは、一時的に脳に格納される記憶のことで、時間の経過とともに忘れてしまうか、長期記憶へ移行されます。海馬の機能が低下することによって、一時的な記憶であっても脳に格納されにくくなり、新しいことを覚えることがとても難しくなります。これを短期記憶障害といいます。
  • 長期記憶障害 ・・・ 長期記憶とは、今までに得た知識や体験した出来事などを、何かのきっかけで思い出すことのできるような記憶のことを言います。この記憶が抜け落ちてしまうことを長期記憶障害といいます。
  • エピソード記憶障害 ・・・ 体験した出来事を忘れてしまう障害です。
  • 手続き記憶障害 ・・・ 身体で覚えたことを忘れてしまう障害です。
  • 意味記憶障害 ・・・ 言葉の意味を忘れてしまう障害です。普段よく使っている物の名前なども忘れ、「あれ」とか「それ」などの表現が多くなり、会話が難しくなります。

記憶障害を分類すると、短期記憶障害・長期記憶障害・エピソード記憶障害・手続き記憶障害・意味記憶障害の5種類があると考えられています。

アルツハイマー型認知症の記憶障害の進行例

  • 初期 ・・・ 初期の段階では、短期記憶障害が現れ、新しいことが覚えられなくなります。会話では、同じ質問を繰り返したり、直前の内容が思い出せないことがあり、生活面では物をしまった場所を忘れて探し物が多くなったり、水道の蛇口を閉め忘れたり、火をつけっぱなしにして鍋を焦がしてしまうなどの言動が多くなります。
  • 中期 ・・・ 中期の段階では、更に症状が進行してエピソード記憶障害が現れます。食事をしたことを忘れてしまったりするなど体験した記憶を忘れてしまうことが多くなります。
  • 後期 ・・・ 後期の段階では、長期記憶障害(記憶の逆行性喪失)、手続き記憶障害、意味記憶障害を含め全ての記憶力に障害が現れます。

記憶障害への対応

  • 記憶障害は進行性で本人に自覚がないため、本人は自分の記憶や言動が正しいと思っています。真実が別にあり、その記憶や言動を周囲の人が訂正することは、本人からしてみれば、嘘を言われて、自分の記憶や言動を否定されたり、抑制されている感覚になり不安が高まります。また、本人に向けて怒ったり無視をすることは、本人にとって強いストレスになり、そのストレスで症状が悪化してしまいます。まずは、本人の言動を笑顔でいったん受け止めて否定はせず、周囲の人が本人に合わせ安心してもらうことが対応の第一歩です。

記憶障害へのケア

  • 伝えたいことがある時は、ゆっくりとした柔らかい口調で、少しずつ具体的に繰り返し伝え、併せて伝えたいことを紙に書いて、目に見える場所に貼っておいて下さい。また、代償手段として、日記やメモ、手帳などを使うことも行ってみて下さい。

認知症による物忘れと老化による物忘れの違い

  • 一概に物忘れと言っても、「認知症によるの物忘れ」と「老化による物忘れ」があります。健康であれば、記憶力は20代をピークに加齢とともに減衰していきます。しかし、記憶力以外の力は、50歳くらいまでは様々な経験や体験をすることで成長すると言われています。そして、60歳くらいを境に、記憶力の低下とともに理解・判断力が徐々に低下していきます。
  認知症 老化
原因 病気 生理現象
症状の進行 早い ゆっくり
忘れていることに 自覚がない 自覚がある
記憶範囲 全部忘れる 一部を忘れる
ヒントがあれば 思い出せない 思い出せる
日常生活 支障あり 支障なし

健忘症とは?

  • 健忘症とは、記憶障害の一つで、軽いもの忘れから記憶喪失まで幅広い症状が見られます。原因としては、脳を使わないことや強いストレス、強く頭を打つなどの頭部外傷などだと言われています。作話や記憶錯誤、失見当識を伴うこともありますが、他の認知機能は比較的保たれていています。認知症ではありません。

逆行性健忘と前向性健忘

  • 逆行性健忘 ・・・ 記憶に関する神経機構に障害が発現した以前(過去)の記憶を思い出せない障害です。
  • 前向性健忘 ・・・ 記憶に関する神経機構の障害が発現した以降の記憶に関する障害です。

健忘症の病種

  • 心因性健忘症 ・・・ ストレスの蓄積など心理的なものが原因で、記憶が障害されます。症状としては、逆向性健忘が多い傾向にあります。一定期間の記憶を思い出せない限局性健忘、一定期間内の一部しか思い出せない選択性健忘、全ての記憶を思い出せない全般性健忘、特定の時期から現在までの記憶を思い出せない持続性健忘、あるカテゴリーの情報が思い出せない系統的健忘という5種類に分類されます。
  • 器質性健忘症 ・・・ 脳炎、尿毒症、アルコール中毒、一酸化炭素中毒、薬物中毒、てんかん発作を繰り返した時、糖尿病の低血糖時、睡眠薬の誤使用時などに発症することがあります。直前の記憶はありますが、数十分前や数時間前など、短期から長期の記憶を著しく忘れてしまう傾向にあります。

一部のみ記述致しましたが、健忘症は根本疾患を治療することによって、ほぼ完全に回復したり改善をしますが、認知症は記憶障害が進行してしまうという点に認知症と健忘症の違いがあります